【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
どうして……東と西は仲良くなれないの。
言葉にはしなかったけど、莉胡が言いたいことはわかる。莉胡にとっては東も西も関係なく、大事な仲間ばかりだ。もちろん東にも、西にも。
「初代に奪い合われた人も、
そんな気分だったんじゃないの?」
「え……?」
「知らない?東西の初代の話。
すきな女の人のことを奪い合って、月霞と累はつくられたんだよ」
「……前に、十色に教えてもらった気がする」
「その女の人も、そんな気分だったんじゃない?
……自分を求める男が東と西に分かれてるなんて、きっとどっちも選べなかったんだと思うよ」
だから結局、どちらがその人を手に入れたのかもわからない。
そもそもその話が本当だったのかすら、調べる術はない。集会を行うにしても、その頃の記述が残ってないせいで、初代の名前すらわからない状態なんだとか。
「……そう、よね。
どっちもなんて、欲張りすぎなのよね」
小さくくすりと笑った莉胡。
そういう意味じゃないんだけど、と訂正しようとして、莉胡が手を差し出したから言葉は呑み込んだ。
「もうちょっと奥進みたいから、手掴んでて」
「……溺れないでよ」
「だからつかんでってお願いしてるんじゃない」
はやく、と無邪気に笑う莉胡の手に手を重ねる。
首が浸かるほど深いところまで行った莉胡は、俺の手をぎゅっと握って、すこしだけ引き返した。
「千瀬、こっち来てみて。
途端にめちゃくちゃ冷たくなるから」