【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
「……ちょっとした事情があって付き合ってるだけ。
俺が由真を好きなわけでもないよ」
「………」
「莉胡が不安になるようなことはないし。
春といたいなら、それこそ由真に遠慮せずに付き合ってればいいよ」
「……違う」
莉胡の大きな瞳が、俺をじっと見つめる。
だけど続ける言葉が見つからなかったようで、「砂浜、もどろう?」と俺の手を引く莉胡。
「……莉胡」
声をかけても振り向くことはなくて。
そのまま砂浜にもどると、莉胡は俺に何も言わないまま、すたすたと由真の方へ歩み寄っていってしまった。
「随分楽しそうにイチャついてたじゃねーか」
「そんなことないから。
……俺らの距離感ってあんなもんだし」
「ふ。
じゃあ仲直りするまでの間は相当苦だっただろうな~」
「……そうかもね」
冷たい返しはいつものまま。
だけどあきらかにいつもと違う俺の言葉に、どうした?と言いたげに視線を向けてくる春以外の幹部4人。春はこの場にいないし、なぜか海で読書している羽泉すらも、不審げに俺を見ていた。
「……やっぱ。
幼なじみじゃ、物足りなくなる」
認めれば求めてしまうこと。痛いほど理解していたのに。
莉胡が「違う」と口にして、何を思ったのか。知りたいと思うのに、それは怖いと思うから。──無条件に知ることのできる莉胡の"特別"になりたいと、心底思った。