【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
「莉胡? ……溶けるよ」
「……うん。
千郷、やっぱり半分こしてよ。ひとりじゃこんなに食べきれないもん」
「わかった食べるって」
ずい、とフルーツのかき氷を彼の前に差し出せば、困った顔をして笑う。
それを見て、胸の奥が苦しくなった。……ううん、ちがう。呼吸するのも目を合わせるのも、息苦しい。
「ここ来る時にちょっと見えたんだけどさ。
この海の端の方に、小さい川があるみたいだね。裏手の方は山だから、そこから流れてるんだと思うけど」
「……うん、」
「食べ終わったらちょっと散歩してから帰ろうか。
向こうも気になるけど、アルトはゆっくりしてこいって言ってたし」
海の中でつないでもらった手は大きくて、あたたかくて。
ほんのちょっと。……幼なじみが嫌だったと言った千瀬の気持ちがわかったような気がして、そんな自分が、にくくなった。
……だって。
だって、どうしようもないぐらい。
「……このままふたりで抜け出したら、みんなどんな顔すると思う?」
千瀬と、ふたりでいたい。
どんな理由が存在しても、由真ちゃんが千瀬の彼女だってことに、嫌だって思うの。
「抜け出したら?
……何やってんのって後で怒られるでしょ」
「……そう、ね」
──ああ、どうしよう。
うまく笑えてる自信はないのに、なぜかとんでもなく、心の中がふわふわする。しあわせだって、思ってる自分がいる。