【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
ゆったりとわたしの手の甲へ、千瀬がくちびるを落としたのを見てしまう。
咄嗟に引っ込めそうになった手はしっかり掴まれていて、逃げられない。──その視線に絡め取られるだけで、息苦しさに窒息しそうだ。
「……ち、せ、」
「ん?」
ああもう、心臓がおかしくなる。
そんな風に秀麗に笑わないで。それを見るだけで、こんなにも、胸が痛い。"わたしだけ"って思わせるような表情を、向けないで。
「……ああ、くちびるがよかった?」
「っ、」
……なにを、期待してるのわたし。
「も、う……からかわないで……」
なんとか絞り出した声でそういってつかまれたままの手を振り払うと、何も考えなくて済むように、もくもくとかき氷を口に運んだ。
千瀬はただ、わたしをからかって遊んでるだけ。
そう思えばさっきまで熱かった身体は比例するように冷えていって、食べ終えた頃にはもう、寒いと感じるほど。
出ようかと言われて海の家を出ると、照りつける太陽があたたかかった。
「みんなのとこもどる?
それとも、さっき行ってたように散歩してく?」
「……散歩、する」
なら行こうか、と微笑んでくれた千瀬に、こくんとうなずく。
階段を下りて砂浜の端へと移動すれば言っていた通りの小さな川があって、足をつければ海よりも冷たい水が流れてる。
遠くまでのぼっていこうとは思わないけどそれなりに奥の方まで行けるようになっていて、手前の方にはどうやら小さな蟹がいるらしい。
子どもたちが蟹を探しているのを横目にすこし奥へと行けば、「転ばないでよ?」と声をかけてくる千瀬。