【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
「どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。
風邪ひかないようにしっかり拭いてね」
そこまで言って、ずっとスマホを見ていないことを思い出した。
由真ちゃんといち早く引き上げてきた時に持ってきたみんなの手荷物の中から自分のバッグを引っ張り出して、中を探る。
出てきたスマホをみれば、着信が3回。
いずれもお父さんからで、電話に出ないことを見越したのか、『雨大丈夫?』と連絡が来ていた。
……お父さん、いま九州にいるのよね?
どうしてここの天気まで知ってるの……?雨降ったのさっきなんですけど……?
「わ、」
おどろいているあいだに、また着信。
今度こそそれに出てリビングを過ぎ、由真ちゃんとのふたり部屋に入って、「もしもし」と返事した。
『莉胡、雨は大丈夫かい?』
「だいじょうぶだけど……
どうしてついさっき降った雨のことを知ってるの、」
『はは、そっちに知り合いがいるからね。
そうだ莉胡、困ったことは?』
「困ったこと……?
うーん……予定なら、海から上がったあとにスーパーに行って晩ご飯の支度をする予定だったんだけど、雨が降ると思わなかったから準備できてなくて」
傘もないしやむの待ってるの、と。
窓の外、海面に雨の雫が叩きつけられているのを遠くから見ながら答える。
『ああ、それなら──』
天気予報では、1日快晴だって言ってたのに。
ついてないなと薄暗い空を見上げて、ため息を吐く。電話の向こうから届くその声だけが、やけに明るい。