【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
そんな明るい声でお父さんが"それなら"なんて言いつつ提案してきたことに、ぽかんとしながら待つこと約30分。
雨脚は強くなるだけで一向に弱まる気配がない中、ペンションのドアをノックする音。
はい、と扉を開けてみれば、お父さんに聞いた通りの人の姿。
ひさしぶりすぎるその人との再会に、思わず口元がゆるんだ。
「ちあちゃん、」
「ひさしぶり、莉胡。
前に会った時はあんなに小さかったのに、大きくなったなー」
濡れた傘をたたんで置いたちあちゃんは、わたしのわきの下に手を入れて、ぐっと持ち上げる。
大きくなったと言うくせにあっさり持ち上げられて、完全なる子ども扱いだ。
「……ちょっと、千秋(ちあき)。
頼むから大人になってもそうやって恥ずかしいことすんのやめてくんない?」
それでもこんな風にわたしを甘やかすのはちあちゃんだけだし、と。
特に抵抗することなくじっとしていたら、背後から幼なじみの声が聞こえる。
「莉胡は俺の中で、
ずっとかわいいおひめさまなんだよ」
あなたは王子様ですか、ちあちゃん。
そんな綺麗な顔で、きらっきらな笑顔で言われて、うれしくならない女の子がいないわけがない。
「ちあちゃん大好き」
昔から変わらないわたしの言葉にふっと笑った彼が、わたしをゆっくりと下ろした。
ドアが閉まったかと思うと、雨音が遠くなる。──足を進めて立ち入ったリビングで、ちあちゃんの姿を見たみんなは開口一番「千瀬そっくり」と口にした。
……そう。
ちあちゃんはわたしたちの11歳年上で、正真正銘千瀬のお兄ちゃんだ。わかりやすく言うと、千瀬に優しさと甘さを足したような人である。
「……っていうかなんで千秋がこんなところにいんの」
むっと。
決してちあちゃんを嫌っているわけではないのに拗ねている千瀬が、ヤケクソで尋ねるのだけれど、実はわたしもそれは気になっていた。