【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
一瞬にして東西の視線がわたしへ集まる中、薄くため息を吐いて十色へ近づく。
黒い特攻服を着た十色の隣に、灰色のそれを着た副総長の乃詠さんと、白の特攻服の幹部。
月霞の下っ端は全員青だ。
対する累は下っ端の特攻服が赤だから、それだけでもすでに対照的。
「俺、こうやって総長やってるけど痛いことは正直あんまり好きじゃないんだよね」
のんびりマイペースに言い放つ十色が、やたら時間をかけて歩み寄ったわたしの髪に指を通す。
俺の、とでも言いたげな視線を向けられたかと思うと、「黒髪がよかったな」なんてのんきにつぶやくから、倉庫内はどこまでも十色のペースだ。
「だからさ。
頭脳戦で行こうと思ったわけよ」
ちらり。
織春にようやく十色が視線を向けたかと思うと、わたしの身体を引き寄せて見せつけるみたいに微笑む。
「──おかえり、東のおひめさま」
何が東のおひめさま、だ。
相変わらず胡散臭いし、それを見兼ねてるのか西のみんなも形容しがたい表情してるじゃないの。
「思った以上におどろかないね。
……俺いま、莉胡が東の人間だってアピールする発言したんだけど」
その発言で、倉庫内がざわめく。
西だけでなく、東もだ。わたしと千瀬が裏切り者だと追放されて以来、東側からも不完全燃焼ながら敵だと思われていたはず。──だけど。
「そりゃそうよ、十色。
──だって幹部は全員、わたしが"東のスパイ"だったこと、もう知ってるもの」
ぴく、と。
わたしの肩に触れていた十色の手がわずかに揺れて、彼が眉間を寄せる。
「莉胡」
「ふふ、予想外で困っちゃった?
本当ならここで西のみんなが精神的な衝撃を受けたところで、西を滅ぼしてわたしは無事に月霞にもどる。──あなたの手元には東西統一のレッテルが残る、っていう作戦だったものね?」