【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
目の前の十色が、一瞬ちらりとわたしの後ろに視線を流した。
振り向いてないけれど、なんとなく、千瀬を見たっていうのはわかる。
「だけど幼かったわたしに対してあなたは……
ことば巧みに、口説いてみせたのよ」
千瀬のことが好き?と、聞いておきながら。
同時に俺と付き合おうと言い出したのは、十色の方。──そしてわたしは年上の口説きを拒みきれずに、十色と付き合うことになった。
「でもまあ、思い返せばあなたがそうやって口説いてきたことも、わたしがあっさりあなたと付き合ったことも悪いんだからなんとも言えないけど。
……わたしが赦せなかったのは、」
さっきも言ったように、本命の存在がいたことだ。
わたしと付き合うことになってからというもの、十色はわたしのことを本当の彼女だと思ってしまうぐらいに優しくしてくれたし、たっぷり愛情をくれた。
そしてわたしは、みっともなくも十色のことを好きになってしまう。
まだ中学に上がったばかりだったわたしにとって、彼氏なんて未知の世界で。あれほど十色が愛情を注いでくれれば、そうもなる。
──それから、約2年と、すこし。
「わたしをあれだけ振り回して好きにさせておいて……
本命の彼女がいたこと、どうしても赦せなかった」
事実を知ったわたしは、千瀬に泣きついた。
クリスマスの夜に千瀬に泣きついたんだから、彼もきっと覚えてるだろうけど。喧嘩したと言って慰めてもらったけど、本当は十色の本命の存在を知った。
「でもまあ、これも……
2年振り回したからだとか、ただわたしがあなたを好きになったから赦せなかったとか、そういう理由じゃないのよ」
本当にわたしが赦せなかった理由。
──あの日かわした、千瀬との約束もふくめて。
「わたしにとって……
あのとき何年も続いてた初恋を、あなたは強引に終わらせたの」
「……莉胡」
「わたしがどれだけ千瀬のことを好きだったか……
口説いた時からずっと知ってたじゃない……」