【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
千瀬のことが好き?と聞いてきたあの瞬間から。
まるでわたしのことを好きみたいに、口説いてきた十色は。
わたしがどれだけ千瀬を好きだったか、知ってたはずなのに。
「ッ、強引に終わらせてまでわたしのことを彼女にしたくせに、っ……
それが嘘だって気づいたら、どうしても赦せなかった、」
ゆらゆらと揺れた視界。
泣くなと思ってもあふれてくる涙が重力にさからえなくなって、ぽたりと流れ落ちる。
「偶然そのあとミヤケが口をすべらせて、千瀬があの頃同じようにわたしのことを好きだったことを聞かされて……
だから、あなたを裏切ろうって、決めたの、」
本当は、ずっと黙っているつもりだった。
誰にも言わずに、大事にしてくれる十色の隣で、笑っていたかった。──千瀬に対する初恋は、わたしの中で、思い出になるはずだったの。
「八つ当たりだって思ってくれて構わない。
……わたしは自分の感情だけを理由に、東側を裏切ることに決めたんだから」
手の甲で、あふれる涙を拭う。
すこし鮮明になった世界でわたしを見ていた十色の表情は苦しげで。──その理由ももうちゃんと、わかっていた。
「途中で文句を言いたいこと、たぶん出てくるだろうけど……
とりあえず最後まで、俺の話を聞いてほしい」
「……、わかった」
文句を言われるようなことをしたという自覚は、彼にもあるらしい。
そして彼が言いたかったことも把握していたから、こくりとうなずいた。
「……莉胡に「千瀬のことが好き?」って声をかけて、半ば強引に彼女にしたとき。
莉胡は千瀬が好きで、千瀬は莉胡が好きで、俺には莉胡が言う通り彼女がいた」
その彼女が、十色の本命の彼女さん。
名前は知らないけれど千瀬パパからもらった写真で見た彼女は、とても綺麗な人だった。
──わたしが敵う相手じゃないと、思うくらいに。