【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
「俺が彼女がいたにも関わらず、莉胡に付き合う話を持ちかけたのは。
……彼女は昔から身体が弱くて、ずっと病院に入院してて。もし万が一にでも俺の彼女であることを知られて敵に病院に忍び込まれたりしたら、俺は毎回守ってはやれない」
病院に十色がずっといるわけにはいかない。
病院のセキュリティはあると言えど、入院患者は特別な事例がない限り、知り合いだと言わなくても誰でもお見舞いを振舞って会いに来れる。
「だから、
彼女を守るためのカモフラージュとして、どうしても"姫"をつくりたかった」
それは彼が、総長に就任する前の話。
──1年後自分が総長になることを見越して。そしてわたしが姫にするための女だとわたし自身にもばれないように、彼はわたしを彼女にした。
「千音に、千瀬の幼なじみがいるってことを知ったとき連れてくるように言って、うまくいって……
偽でも俺は莉胡の彼氏だったから、ある訳もない愛の言葉はいくつも言った」
わたしが求めた言葉の数々は、ぜんぶ嘘だった。
本命の彼女を守るためだけの、彼の演技だった。
──もっとわたしが、千瀬のことを盲目的に好きで、彼に流されることなんてなかったら。
十色がもし、はじめからカモフラージュの彼女になってほしいと、言ってくれていたら。
「……そのままずるずる付き合って、莉胡は一応月霞の姫ってことになった。
でも、ひとつだけ莉胡が知ってるのと違うことは。──莉胡が俺を好きになってくことを実感してるうちに、俺もそれに呑まれた」
「………」
「付き合って、1年ちょっとぐらいで。
確実に俺はもう、莉胡のことが好きだった。──もちろんいまも、ちゃんと好きだよ」
俺を好きになろうとしてくれる莉胡のひたむきな姿に惹かれたんだよ、って。
どうしてもっとはやく、教えてくれなかったの。
「本命の彼女にまで、「好きな子できたでしょ?」って言われるぐらいに好きだったけど。
……俺が彼女と別れなかった理由は、そうすることで莉胡を彼女にした理由を失ってしまうって思ったから」
「、」
……ああ、そう、か。
自分勝手なのはわたしだけじゃなくて。──この人も、おなじだった。