【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-



海に行ったあのとき。

ちあちゃんが言ったあのセリフ。



『……俺のかわいい後輩がさ。

莉胡のことをだいすきだから、かな』



あれは、千瀬のことじゃなかった。

聞いた瞬間になぜか千瀬よりも強く浮かんだのは十色の顔で、そしてそれは事実だった。──あの言葉に込められた後輩は、十色のことだった。



「莉胡が徐々に俺を好きになったのをわかったように。

……莉胡が俺を好きじゃなくなったことも、ちゃんと気づいてた」



まさかそれが本命の存在を知ったからだとは思わなかったけど。

そう静かに告げた十色は、わずかにまぶたを伏せる。



「……クリスマスの夜に俺が本命の元に行ったのは、急に状態が悪くなって、危険だって聞かされたから。

幸い命は無事だったし、いまはようやく、定期健診だけで済むほどまでに回復した」



ずっと入院していた彼女が、そこまで回復したことには直接関係のないわたしでも、よかったと思ってる。

あのとき十色が彼女の元に行ってなかったとして、もしそれが原因で彼女の精神の炎が消え去っていたら、と思うと、心の底から行ってくれて良かったと思えるけれど。




「だけど後日。

俺と喧嘩した、って莉胡が千瀬に泣きついたことを誰からともなく聞かされたとき……敵わないって、打ちのめされた気分だった」



「………」



「無条件に抱きしめてくれる初恋の幼なじみ。

……誰よりも莉胡のことが好きで、誰よりも莉胡のしあわせを願う千瀬には、敵わないって」



拭って止まったはずの涙がまたあふれだす。

──わたしを泣き止ませるためだけに交わしたあの約束を、千瀬は、一度たりとも忘れていなかった。



「もしあの事故が、演技じゃなかっとして、東西統一計画も何もなかったら。

俺は千瀬だけを追放すれば良かった。もしくは、莉胡だけを。──同時に追放する必要なんて、なかったでしょ?」



「といろ、」



「演技でも、莉胡は追放されたことで千瀬に泣きつく。

そうなれば今度こそ、千瀬は誰のものでもなくなった莉胡を、大事に守ってくれるって思ってた。──幼なじみじゃなく、彼女として」



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