【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
そのせいで泣いた覚えはないけど。
たぶん相当傷ついたってわかる顔してたんだろうな。……莉胡に、「ちせどうしたの?」って聞かれた記憶がある。
そして俺はそれにホッとしたのか、
莉胡に、その話をしてしまって。
「ちせのこといじめないでっ。
ちせはわたしの"おさななじみ"なの! わたしのいちばんだいじなひと、だもん。ずっといっしょなのっ」
莉胡は、俺に文句を言ったその相手に対して、そう言った。
相手もそれでどうやら傷ついたらしくて泣かせてしまったから、あとでそれぞれ親に怒られたりもしたけど、莉胡は「ぜったいわたしわるくないもん」の一点張り。
だけど俺だけは、知ってる。
莉胡はあのあと、ちゃんと「言いすぎて泣かせちゃってごめんなさい」って相手の男に謝ってた。
そして俺には、「千瀬はぜったいわるくないよ」って微笑みかけてくれた。
……その笑顔はあの頃の俺にとって、何度も何度も思い出すほどまぶしくて、綺麗で、うらやましくて。
──その笑顔で、莉胡しか見えなくなった。
「……ほんとに、もう」
俺の感情はそんなに幼い頃からはじまってるのに。
あの頃はまだ、純粋に莉胡を、好きでいられたのに。──いまはもう、認めることさえできなくて。
「……好きだよ、莉胡」
耳元でささやけば、「ん、」と身を揺らした莉胡が、俺の言葉を理解したみたいに、しあわせそうにふにゃっと笑ったから。
小さく息を吐いて身体を動かすと、ベッドがぎしりと軋んだ音を立てる。
「……起きないでよ」
顔の隣に手をついて、さらさらの黒髪を撫でて。
俺とは噛み合わない意味で「好き」と紡ぐ莉胡のそのくちびるに、そっと口づけを落とす。
シンデレラのアレンジだった、あのお遊戯会。
相手は俺じゃなかったけど、最後たしか頬にキスするシーンがあって。だからこそ俺がいいってわがままを言ってくれたお姫様への、数年越しのご褒美だ。