【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
「莉胡、風呂どうする?
一緒に入る?それとも先はいる?」
言っておくけど、べつに千瀬からの「一緒に入る?」は、混浴っていう意味じゃない。
家が隣だから、帰ればお風呂は誰も使ってないし。同じタイミングで入る?という意味だ。ややこしいけどちゃんとわかってる。
「ううん、今日はお母さん達いないし……
千瀬の家でお泊まりって決まってたから、お風呂のお湯も貯めてないの。こっちでお世話になっていい?」
「ん、りょーかい。
着替え俺の部屋に置いてるのでいい?」
「あ、えっと……
こっちに置いとくの増やしたいから新しいの買ったんだけど……それ持ってきていい……?」
「ああ、うん。いいよ。
待ってるから取っておいで」
うそなんだけどね。
千瀬の部屋に置いておくための部屋着じゃなくて、クリスマスイブ用の部屋着だったんだけどね。……なんて。
こころの中でつぶやいてから一度家に取りに戻って、七星家のお風呂を借りる。
……ふうと落ち着くのに一息ついてみたけど、やっぱり緊張で指先が震えてるのがわかる。
千瀬はわたしのペースでいいと言ってくれたけど。
応えたい気持ちは、いっぱいあって。
「いつもより遅くなっちゃってごめんね。お先です」
「ん。
……ふ、かわいい。ふわふわじゃん」
スマホから顔を上げた千瀬が、わたしを見て口元をゆるめる。
ふわふわと言った千瀬の手が背中を撫でて、「抱きしめたら気持ちよさそう」と笑うから、またあとでねと笑ってみせた。
交代で千瀬がお風呂に入って、そのあいだドライヤーを借りて髪を乾かす。
だけどやっぱり落ち着かないというか。
っ、どうしよう心臓が痛い。
昨日もすこし寝不足だったのに、千瀬とふたりきりだと落ち着いて眠れる気がしない。いつも通りに心がけるほど、意識する気がする。