【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-



「ちゃんと自分で乾かしたんだ?」



「あっ、うん……

たまにはちゃんとやろうかと思って……」



ほんとうは千瀬に乾かして欲しかったけど。

今はちょっと、微かな触れ合いだけでも緊張が止まらないし。意識を逸らしたくて髪を乾かしてたなんて、そんなこと言えるわけないし。



「どうする?

まだ21時だけど、今日1本だけだったし映画観る?」



「あ、えっと……」



どうしよう、か。

何も考えてなかったから思いつかないし、色々考えていたらロクな言葉も浮かんでこないし。ぐるぐると考えていたら、千瀬が小さく笑った。



わたしをぎゅっと抱きしめて「莉胡」と甘い声で名前を呼んでくれる千瀬に、どきどきする。

幼なじみじゃなくて……恋人の、距離感に。




「そんなに身構えなくていいよ。

いつも通りでいてくれたら、それで」



「……ちがう、の」



「ん?」



「千瀬がそうやって優しくしてくれるのは……

ほんとに、うれしいの……うれしいししあわせなの。でも千瀬……付き合う前からいっぱい我慢してくれてたじゃない」



何度も何度も我慢して、何度も苦しんで。

だけどわたしのしあわせだけを願って、自分の気持ちは隠し続けてくれて。



「ちゃんと、付き合えたんだから……

もう千瀬に、たくさん無理させたくないの」



ぎゅっと、彼の服を握って。

見つめれば、困ったように微笑むから。あきれてるかもしれない。だけど、千瀬にもしあわせになってほしいというこの気持ちは、絶対に譲れないの。



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