【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
強く服を握っていた手をそっとほどかれて、やっぱりわかってもらえないのかと落ち込んでいたら、
頭上からふってくるのは「莉胡」と優しい声。
「……キスしよっか」
「、」
いつも、そんなの言わないのに。
どうして……?と顔を上げたら、片手で顎を掬われてくちびるに口づけを落とされる。一度だけじゃ済まないそれは、徐々に深さを増して。
……なに、これ。
いつもキスされるけど、こんなに熱くて甘ったるいの、されたことない。
「ん、っ……ちせ、」
呼吸すらままならなくて、ついていくのが精一杯。
そんなわたしの呼吸の限界をわかったようにくちびるを離した千瀬を、息が上がったまま見つめる。
「すっかり足腰砕けちゃってほんとかわい。
……キスだけでこんなにとろんとしてんのに、まだついてこれんの?」
決して突き放す言い方じゃない。
だけどわたしの気持ちを試すような千瀬の言葉は、キスだけでじゅうぶん溶かされたわたしの心に沁みていくから。もう拒む気なんて、起きない。
「……もっと触れて、いいの?」
抱きしめたまま甘く身元で囁かれて、ピクッと肩が跳ねる。
否定しようもないほどに真っ赤な顔で千瀬を見上げて、小さくうなずいた。
「……わかった。 じゃあ、おいで」
手を引かれて、リビングから千瀬の部屋に向かう。
うなずいちゃったし、嫌だとは思わない。だけど恥ずかしくて、千瀬の顔を見れそうにない。
どうしようと悶々と考えていても、部屋までは階段を上がればすぐなわけで。
千瀬が電気をつけていつも通りの部屋を目にした瞬間、どうしようもない羞恥で焦がされそうになる。