【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
たとえばもし、莉胡がまだその男と付き合っていたとしたら。
俺とはきっと出会うことなんてなくて、こうやって俺が莉胡を口説くこともなくて。
「そんなにまっすぐに好きって言われたことないのよ、わたし。
……だから春にそうやって好きって言ってもらえるのは、本当にうれしくて」
「……ああ、」
「その分だけ、こたえられないのがつらいの」
伏し目がちな莉胡の瞳。
長い睫毛が、本心を告げる莉胡に合わせるように震える。
「引く気はねえけど……
押し切る気もねえよ、俺は」
振られたからといって、あっさりあきらめるほど潔くもない。
可能性が限りなくゼロに近かったとしても、ゼロじゃないのなら。──そう思うほどにはとっくに、莉胡だけしか見えてない。
「家、そこだろ?
……のんびり歩いてきたけど、結構あっという間だったな」
「……送ってくれてありがと、春」
「ん」
さっきまでの深刻そうな表情と違い、ふわりと笑ってお礼を言ってくる莉胡を見て、悪い気はしない。
またな、と風に揺れる黒髪を撫でて、踵を返そうとしたとき。
「あら、おかえりなさい。
……もしかして、莉胡の彼氏?」
『夏川』と表札のある家の扉が、がちゃりと開いて。
中から出てきた女性は、莉胡によく似てる。──いや、莉胡が似てるのか。
「あらあら、相変わらず美少年連れてくるんだから。
昔のママそっくりじゃないの」