【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
こんにちは、と微笑んでくれる彼女に同じように挨拶を返せば、莉胡は「彼氏じゃないから」と薄くため息を吐く。
それから俺を見上げて、「ごめんね」と申し訳なさそうに謝った。
「あら、違うの?
千瀬くんがいないから、てっきりそうなのかと思ったじゃない」
「千瀬は用事あるからってどっか行っちゃったの」
「……あら。どうしようかしら。
てっきり千瀬くんがいるから平気だと思ってたんだけど、」
「? ……平気って、何が?」
「七星ママとお出かけするんだけど、夜遅くなっちゃうのよ。
それが心配だっていうのもあるんだけど……今日の夕方から晩にかけて、激しい雷雨になるって、天気予報で言ってたの」
それを聞いた瞬間に、莉胡の表情がこわばる。
もしや、と思い聞いてみれば、案の定、雷が苦手だと言う。……どうやら幼い頃のトラウマらしい。
「千瀬くん何時に帰ってくるのかわからないのよね?」
「わかんない、けど、」
もごもごと、口ごもる莉胡。
ひとりになるのは怖いが、莉胡の性格上わざわざ千瀬に帰ってきてもらうのも、と思っているんだろう。
「……俺でよければ、莉胡と一緒にいましょうか?」
「えっ、ほんとに……?
それじゃあお願いしてもいい?」
「ちょっ……おかあさん、」
莉胡が引き止めるも、時すでに遅し。
お願いねーとにっこり笑った彼女は、莉胡の話なんて完全に無視で、向かいの七星家のインターフォンを押している。