【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
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関東の東を拠点にする月霞。
西を拠点にする累。──その双方が同じ6代目なのは、出来た日がまったく同じであり、その代を同じように引き継いできたからだった。
元はひとりの女をめぐって争っていたふたりの男が、当時、月霞と累という暴走族をつくりあげ、
その女のことを、"姫"にしようと躍起になっていたらしい。
結果的に初代が引退するまで姫は決まらず、その後どうなったのかは定かではないが、初代の想いを引き継ぐかのように、東西はお互いをライバル視してきた。
──それは、6代目になる今も変わらない。
初代がつけた、月霞と累という名前。
月霞には、月が霞んで見えてしまうほどに彼女は美しい、という意味が。そして。
累には、累という言葉が持つ、"次々とつながり重なる、や、つみ重ねる"といった意味を用いて、
自分の彼女への想いは積み重なっていく。そして累はずっと続いていく、という意味が込められている。
ひとりの女をめぐって、暴走族をつくる。
さらにその名前へ彼女への気持ちを込めた双方の初代総長たちにとっては、おそらくどうしようもないほどに彼女が大切なものだったんだろう。
──当時はただ何気なく、そう思っていたが。
いまならその気持ちも、なんとなく、わかる気がする。
「んー……千瀬まだ帰ってきてないみたい。
雲行きも怪しくなってきてるけど、傘持ってるのかしら」
──リビングで。
特にすることもないから、と莉胡が映画のDVDを取り出してきて、とりあえず1本見終えたが、どうやら千瀬はまだ帰ってきていないようで、さっきから莉胡は不安げな表情のままだ。
「春、何か好きな料理とかある?
あんまり凝ったもの作れないけど……そろそろ晩ご飯の時間だし、なにか作るわね」
「ふ。莉胡に任せるよ」
なんでもいい、と答えたら、「それがいちばん難しいのに」と言いつつも、莉胡が冷蔵庫から食材を出していく。
ソファから立ち上がってちらりと様子を覗きに行けば、「緊張するでしょ」と彼女が頬をふくらませた。
「別に緊張なんてしてないだろ」
「するわよ。
……男友だちの目の前でご飯作ったことなんてないんだもの」