【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
「たまに小悪魔だって言われないか?」
「んー……否定はしないでおくわね」
「やっぱり言われるんだろ」
淡々と会話をしながら、莉胡があっという間に作り終える。
出来上がったのはポトフで、明日には鍋に残ってるそれをアレンジして、カレーにするらしい。千瀬の方が料理上手だと言っていたが、莉胡も十分すぎるほどだ。
「……いまさらなこと聞くけど、お前の父親は?」
「お父さんは、いま関西に出張行ってるの。
あと1週間ぐらいで帰ってくるから、ちょっと長めの出張で、短めの単身赴任、って感じ。いつも日本だったり海外だったり飛び回ってるのよ」
晩飯の最中に話すのは、他愛のないことで。
どことなく会話が質問に偏ってしまうが、莉胡は嫌がる顔を見せることなく、答えてくれた。──そうこうしているうちに。
「……雨降ってきたな」
「そうね。……千瀬の家のリビング、まだ電気ついてないし、千瀬の部屋の電気もついてないし。
ほんとにどこ行ってるのかしら」
濡れて風邪ひかなきゃいいけど、と。
つぶやく莉胡に「心配か?」と聞けば、くすくすと笑われてしまった。
「心配だけど、大切な幼なじみだからだもの。
どちらかといえば心配してるのは春の方なんでしょう?」
「……そうだな。
お前が千瀬のことばっかり気にかけるから、心配、というよりはただの嫉妬」
「そうやって正直なあなたのこと、嫌いではないのよ」
莉胡の指が、指に絡んでくる。
落とされた莉胡のため息は憂いを孕んで、どことなくあきらめにも似ている気がした。