【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
「え、あ、うそ……、」
「落ちて停電したのか、」
「や、春……離さないで、」
強く強く抱きついてくる莉胡の髪をなでたまま、ポケットのスマホを探る。
それを取り出して光をつけると、瞳いっぱいに涙を浮かべた莉胡の姿。
「っ、……やだ、もう、」
「とりあえず座って落ち着いた方がいい。
莉胡、ソファまで歩けるか?」
ふるふると首を横に振って、むりと言う彼女。
……歩けねえなら、どうしようもねえし。
「莉胡、これ持ってろ」
持っていたスマホを莉胡に持たせ、そのまま身体を抱き上げる。
ソファまで移動して彼女を下ろすと、その腕が離れるのが嫌なのか、莉胡が首裏に腕を回してまた強く抱きついてきた。
「莉胡、」
かたん、と莉胡の膝に落ちるスマホ。
暗闇の中で結構な明るさを放つそれのまぶしさに一瞬顔をしかめてからすぐそばのテーブルに置いて、莉胡をまた抱きしめる。
「……だいじょうぶだよ」
安心させるように触れ合わせたくちびる。
さっきはどうしようもないほどの感情を受け入れるだけだったそのキスを、恐怖から逃げるためだけに求めてくる彼女。
何度も何度も重ね合っているうちに、莉胡の瞳が徐々に我を取り戻していく。
さらりと流れ落ちる髪を掻き上げてやって、さらに深くもとめて、──雷の音が、遠くなる。