【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
閉ざされていた瞳が、ゆっくりとわたしを見据える。
熱のせいでわずかに潤んだそれに、心臓が脈打った気がした。──わたしを引き止めた手が、熱い。
「……莉胡、」
「熱、下がってないのよね?
……あの、お見舞い一緒に来てくれてるんだけど、」
お見舞い?と。
反芻した千瀬にこくりとうなずいて、呼んでもいい?とたずねる。千瀬は迷うように視線を動かして「いいよ」と言ったかと思うと、ベッドから上半身を起こした。
「まだ熱下がってないみたいなんだけど、
千瀬が通していいって」
「……なんだ。
アルトか千咲だけだと思ったら、みんないんの?しかもめずらしくトモまでいるし」
扉を開けてみんなを通せば、見たその姿になんとも言えない反応の千瀬。
だけど別に拒んでるわけじゃないのはわかるし、心做しか、うれしそうに見える気もする。
「ひさびさだろー?
なのにお前熱出して休んでるからすげー暇だったんだよ。体調管理ちゃんとしてそーなのにな」
「いつもはちゃんとしてるよ。
……莉胡、今日の朝ちゃんと行けた?」
「もう、子ども扱いしないで。
ちゃんと起きて学校行ったわよ。……昨日は遅刻しかけただけ」
「そ。ごめん莉胡、体温計持ってきてくんない?
あと、スマホの充電切れてるし、充電器下にあるからそれも持ってきてくれると助かるんだけど、」
「うん、持ってくる。
ついでにりんご切ってくるから、袋の中にあるスポーツドリンクとかゼリーとか、勝手に好きなの飲んで」
「ん、ありがと」
千瀬がこうやってわたしのことを頼ってくれるのは、熱のときぐらいだ。
だからわたしは文句を言わないし、多少の小言を言われても気にしない。──千瀬はまだ、わたしを必要としてくれてる。