【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
わたしがいないあいだは、男の子同士でたのしく話してるのかな、なんて。
想像をふくらませながらりんごを食べやすい大きさに切り、彼の頼みである充電器と体温計を手に、2階へもどる。
かちゃりと部屋の扉を開けるといちばんに飛んできた千瀬の声は、「よかったね莉胡」と、わたしに向けられたものだった。
「……よかったって、なにが?」
「春と、付き合ったんでしょ?」
「え、いま言ったの?」
「ううん。なんとなくそんな気がしたから聞いたら、春が付き合うことになったって教えてくれただけ。
春なら莉胡のことしあわせにしてくれるでしょ。昨日は色々言ったけど、莉胡の出した答えに文句は言わないよ」
──千瀬の発言は、どこまでも、わたしを見守ってきてくれた幼なじみのもので。
うん、ありがとう、とそれに返すわたしは、どこか他人行儀。
「……今度お菓子つくってあげる約束してたけど、春にあのスイーツ食べ放題連れていってもらったら?
元から春は行こうって言ってくれてたんだし」
「え?あ、うん……そう、ね。
織春がいいって、言ってくれるなら、」
「莉胡が行きたいなら連れていってやるよ」
「……じゃあ、一緒に行こうね。
ネットで予約できるんだけど、まだ空いてるかな」
本当は、千瀬と行きたかった、なんて。
そんなことを言ったら千瀬にも織春にも怒られそうだから、心の中にとどめた。
「熱、何度だった?
高熱なら大人しく寝てなくちゃ」
──織春と付き合うってことは、千瀬と一緒いる時間が、減るってこと。
十色のときは出来ていたそれが織春になるとむずかしく思えるのは、わたしが織春を好きじゃないから?