【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
「千瀬は……、
莉胡と十色さんがヨリをもどすように、十色さんに言ってほしいって言ってました」
「莉胡のことずっと好きなくせに、余裕ぶってさ。
……まあ、千瀬が余裕ぶってんのとかどうでもいいけど。莉胡は、取り返しとこうかなあ」
「………」
「……やっぱり累に喧嘩でも仕掛けるべきか。
ねえ、かなり下の傘下のヤツら何人か闇討ちしといてくんない? ああもちろん、足はつかないように」
「闇討ち、ですか」
「別に俺ら正統派じゃないし。暴走族に正統派もクソも求めんなよ。
このご時世、ほんと世界って面白くないんだよね。ああそうだ、ちゃんと病院送りになるぐらいの闇討ちにしといてよ?」
わかりました、と。
言えば彼は満足そうに笑って、かちりと月のペンダントを開く。ロケットになってるそれの中身は、たぶん。
「それと、夏休みの最後に暴走するから。
俺の特攻服ちゃんと出しといてね」
「……刺繍したあと、1回も着てないやつですよね?
あれ、暴走のときに着るんですか?」
「そ。……だからそれまでに、累に喧嘩しかけて、ずいぶんと挑発しとかないと。
あいつらの落胆する顔、楽しみだね?」
「………」
「ああ、言っとくけど。
今回千瀬に花持たせてやるようなことは一切ないから、言うなよ? 出てくるとめんどくさいし」
追放したのは、去年の冬。
それのすこし前に、彼は自分の特攻服の右袖に、彼女の名前を刻んだ。──『我命有限莉胡愛続』。
刺繍してからは一度も目にすることのなかった、
愛を誓った真っ黒な特攻服。