【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
ふわりと香るのは、千瀬のボディシャンプーと同じ匂いで。
無意識に安心するその匂いに、涙も落ち着く。
「莉胡のこと、嫌いじゃないよ。
だから……泣かないで、莉胡、」
「……っ、ふ」
「だいじょうぶ。
……嫌いになったりしないから」
ぎゅう、と。
抱きしめて、ぽんぽんと背中をあやすように叩く千瀬。──見放されてしまうことが、こわくて。
「っ、わがままで、ごめんなさ……っ」
千瀬の胸に顔をうずめて、縋りつくように。
服を握る、ただただ迷惑でしかない行為も、「いいよ別に」と受け入れてくれる千瀬。──この人がわたしの存在を嫌っているなんて言うはず、ないのに。どうも、情緒不安定だ。
「……莉胡は、そのままでいて。
わがままでも、俺は全然構わないよ」
「千瀬、」
「……むしろそのままじゃないと困る」
「え……?」
「莉胡がわがまま言わなくなったら……
用無しになるのは、俺の方でしょ」
どこか、懺悔するみたいに。
すっ、と。音もなく落とされた言葉が、やけに、胸に重たくのしかかる。──ねえ、千瀬。
「わたしが千瀬のことそんなふうに思うわけないじゃない……
どうして、自分を卑下するの」