【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-
ミヤケが十色の前でわたしに連絡するはずがないのに、一体この男はいつからわたしたちの電話を盗み聞きしていたのか。
ため息をついて、「そうしてちょうだい」と答えれば、快く返事がかえってくる。
『ほんとに莉胡は、千瀬のことだいすきだよね』
「確実にあなたよりも好きよ」
『そこは俺の方が好きって言うとこでしょ?』
声だけでチョコレートを呑み込むような甘ったるさに、胸焼けしそうだ。
どろどろに溶けたチョコレートみたいに。噛み砕く間もなく甘さだけが際立って、どうしようもない。
『俺はこんなに莉胡のこと大事に思ってるのに?』
「大事に思ってる、と。
好き、は、また別物だと思わない?」
好きだからといって、大事にしているかは人によって違う。大事にできないことがその人の不器用な愛し方だってことも、決して例外ではない。
だからといって大事なものはすべて好きなのかと問われれば、そんなこともなくて。
『最近ちょっとひねくれてない?』
「そうかしら。
それならあなたのおかげね、十色」
『ほら、そういうとこだよ』
どこかあきらめるようにため息をつく十色。
だけどわたしをこんなふうに育てたのは実際十色なんだから、どうしようもない。素直なんて言葉、とっくにどこかに捨ててきた。
『俺は、ただただ一途な莉胡のことが好きだったんだよ?』
まるで。
わたしだけが悪いとでも言いたげなその言葉に、目を見張る。……ちがう。わたしは。わたしが、ずっと、欲しかったのは。