【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-



「羽泉が前に付き合ってた女とよく来てたんだと」



さくさく、さくさく。

サンダルの隙間から入り込んでくる細かい砂も、どこか夏を感じさせてくれて、好きだ。



十色と別れて、半年。

隣にいてくれるのは西のトップで、わたしのことを、大事にしてくれる人。愛情を惜しみなく注いでくれる人。



「羽泉が前に付き合ってた女……

本当は羽泉じゃなくて、俺に近づくためにあいつと付き合ってたらしくてな」



絡んだ指を、するすると、弄ぶように。

熱をはっきり共有できないほどの、もどかしくなるようなその動き。けれど離したくはなくなるそれに、惹き付けられて困る。



「羽泉がその女のことどれだけ大事にしてたのか……

俺らがいちばんよく知ってた。だから余計に、その女のことも、その女に好かれた自分も許せなかったけどな。あいつは、優しいんだよ」



織春の目は、綺麗だ。

いくつ醜い現実を見てきても、彼がどこまでも優しいことも。濁りのない純粋な瞳で、仲間たちを支えてきたことも、全部わかるくらい。




「いっそ、俺のことを『お前のせいだ』って責めてくれてもよかった。

……でもあいつは俺のことを、一度たりとも責めたりしなかった」



「それはきっと……あなただったからよ。

自分のことを裏切った女の人よりも、あなたの方が、ずっとずっと大事だった。……だから、言えなくて、きっと、あなたに文句なんて言いたくなかった」



月霞も、累も。

どちらのチームも、チーム内の絆は、誰が見てもわかるほどに強い。──仲間を大切に思うのは、総長も幹部も、下っ端も関係ない。



「……結局それはあやふやになって。

お前と出会ったとき、俺は誰よりも先に、羽泉にお前の話をした」



「……うん、」



「……『応援してる』って、一言だった。

でもその中にあいつの気持ちの全部が込められてたことぐらい、今ならわかるんだよ」



羽泉は。

織春のことを、ちゃんと大事に思ってる。──そうじゃなきゃ。十色のことを浮気するぐらい好きだと言ったわたしに、あんな瞳を向けたりしない。



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