私のご主人様Ⅱ

…とりあえず。

麻夏くんに捕まれた手を上下に振る。離して~って伝わるのかな。

しばらく上下にブンブン振って、そのうち左右にも振り始める。離して~。

と、突然ぱっと離れた。あ、解放された。

麻夏くんに微笑んで、季龍さんの少し後ろに下がる。

私がついていくのは季龍さんだ。麻夏くんじゃない。だから、季龍さんが許さない行動はしない。自分の身を守るためにも…。

「…琴音、行くぞ」

「コクッ」

季龍さんの言葉に頷き、かばんを持ち、引っ張られずとも後に続く。

手を掴まれたまま廊下に出る。

いつもなら悪口やら非難やらが飛び交うけれど、私の頬のせいかいつもの騒がしさはない。それどころか、雑談すらない廊下は気持ち悪かった。

校門を出ると、いつものように伸洋さんが運転席から顔を出す。

「おかえ…は?」

陽気な声で迎えてくれようとしたけれど、その声は私の頬を見るなり消える。

それを無視した季龍さんは、後部座席のドアを開けると私の背を押して先に乗せられる。季龍さんも乗り込んでドアを閉めるけど、車は動かない。
< 110 / 323 >

この作品をシェア

pagetop