私のご主人様Ⅱ

あれは、なんでだ。あいつは保健室に連れていくと言った。それだけのはずだ。待っていれば琴音は自分で戻って来る。

そんなこと、分かりきっているのに。

こいつはバカじゃない。自分の立場をわきまえて動く。自分が不利になるような行動はほとんどしない。

琴音があいつを庇ったのも、俺が学校で不利にならないようにするため。

分かっているはずなのに、俺から離れて行く琴音を止められずにはいられなかった。

「…若、着いたよ」

伸洋の声に顔を上げると、いつも組のもんが世話になる、寂れかけた商店街の一角にある診療所の裏口に車は止まっていた。

伸洋は知らぬ間に外からドアを開けている。

「俺が運びますよ。ここちゃん離してください」

伸洋が眠っている琴音に手を伸ばす。その手が琴音に触れそうになると、訳もなく苛ついた。

「触るな」

伸ばされた手叩き落とし、琴音を抱き抱える。…こいつ、こんなに小さかったか?腕の中に小さく収まる琴音に眉を潜める。

今はとにかく医者に見せるのが先だと、琴音を抱き上げたまま車の外に出る。
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