私のご主人様Ⅱ
梨々香ちゃんはなにも言わず、暁くんを見つめ返す。
相須さんが立っていた場所で立ち止まった暁くんは、俺はとひと言漏らした後、意を決したように息を吸う。
「俺は若の考えに賛成だ。そんな世界で女が生きていくのは危険すぎるだろ」
「…暁に、暁になにが分かるってのよ!!私のことも、お兄ちゃんのことも、何にも知らないくせに、余計なこと言わないでよ!!」
涙声で叫ぶ梨々香ちゃんに言葉を失う。
暁くんの表情は見えない。だけど、ため息をこぼしたように肩が少し下がる。
「そうだよ。なんも知らねぇ。…奏多さんや伸洋さんに比べたら、あんたらのこと、全然知らねぇ。…でも、季龍さんの、お嬢を守りたいって思いはスゲー伝わって来る」
「っ…」
「兄妹じゃないですか。ちゃんと話せば、季龍さんの思いも、お嬢が1番よく分かるんじゃないですか?」
梨々香ちゃんの目から涙がこぼれ落ちる。
それを見ているはずなのに暁くんはお盆を梨々香ちゃんに持たせて振り返る。
「大人しくしとけ。終わったら呼びに来る」
「コク」
去り際に頭を撫でられ、暁くんは広間に向かう。
廊下で立ちすくむ私たちに、相須さんは中に入ってくださいと言って、私と梨々香ちゃんが部屋に入るとすぐに襖を閉めた。