私のご主人様Ⅱ
…こんなの、ずるいよ。突然名前を呼ばないで。
季龍さんが、“宮内 琴葉”を認めないで。
私は、“葉月 琴音”は影であればいいの。“琴音”に“宮内 琴葉”を求めないで。
“琴葉”は、ここにはいられないの。
琴葉と呼ばれるだけで苦しくなる。大切な人たちの顔が浮かんで、会いたいと強く思ってしまう。
こんな思い、したくない。“琴音”なら、耐えられる痛みが耐えられなくなってしまう。
「琴葉、聞いてるのか」
「…“呼ば、ないで”」
「は?」
「…“呼ばないで…”」
琴葉と呼ばないで。季龍さんが、私をここに引き留める季龍さんが、思い出させないでっ!!
捕まれた手を引き、数歩離れてうずくまる。
耳を塞ぎ、強く目を閉じる。
内側から溢れそうな思いを閉じ込めるように、外との繋がりを断つ。そうしなければ、耐えきれない。