私のご主人様Ⅱ

やっぱり、こいつは少しおかしい。

1回たりとも俺に媚を売ってこない。やるべきはやれと言ったが、ここまで割りきるとも思っていなかった。

琴音に視線を向けると、寝癖に気がついたのか前髪を押さえて膨れている。

そっと手を伸ばし、頬に触れると俺に視線を向ける。

「?」

首をかしげ、何?と言いたげな顔を向けられる。それ以上に表情は変わらない。

赤くなることも、媚を売るように笑みを浮かべることも。

ただ不思議そうな顔で俺を見上げるこいつは、再び首をかしげる。

「…変な奴だな。お前」

「!?」

なんだ?急に目に涙をため、ショックを受けたような顔をする。

親指で頬を撫で、顔を近づけるとふっと表情が固くなる。目を見開き、俺をじっと見つめる琴音が恐怖を抱いていることなんか、一瞬で分かってしまった。

…つまり、こいつは俺にそんな感情を抱いていないということ。

こいつを無理矢理犯した男と同類だということ。
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