私のご主人様Ⅱ
「キミにとってはあまりよくない記憶だったかな」
項垂れたままでいると、苦笑い混じりの声が聞こえてくる。
よくない記憶というか、少しトラウマかもしれない。
季龍さんのお父さんは薔薇の花束に視線を戻すと、ふとその表情に哀愁が漂う。誰かを思うような、懐かしむような、悲しげな顔。
「これを渡しに来たキミを見たとき思ったよ。この子はよく見て動いていると。たくさんの薔薇の中からこれを持ってきたことに驚いたもんだ」
「…」
「この薔薇はね、わしの好きな女性の花だった。名前もわからず、傍に置くこともできなくてね。薔薇を見るたびにそれかどうか探していた。あの時これを見たときは嬉しかった。ようやく会えたからね」
好きな、人…。季龍さんのお父さんはこの花を通してその人を思い出してるのかな。
白い薔薇。少しずつ思い出してきた。この薔薇は、奥様に見切られて捨てられてしまった。
秋に色づくというこの薔薇が色つぐのを楽しみにしていたのに、寂しくて。
そんなときだったから気づいたのかもしれない。これを見ていた視線に、渡しそうと行動したのは、同じ花を見ていた嬉しさだったと思う。
それを怒られたんだけど…。後悔ばかりしていたけど、やって良かったのかな。
多分あれ半永久的に保存できる加工されてるよね?そこまでしてくれるのなら、あの時怒られたけど、渡せて良かったかもしれない。