私のご主人様Ⅱ
…それにしても、この方はどちら様?
陣之内家に交流のある企業や団体は多い。でも、自宅に招かれる人はその中でも限られている。
家に招かれる人の顔と名前は全員一致してるはず。でも、資料上でもこの方たちの顔は見たことがない。
さて困った。お呼びするときなんて呼べばいいんだろう。
お客様に名前を聞くなんて無礼だとメイド長に耳にタコが出来るくらい言われてる。だからといってお客様呼びで果たしていいのか…。
考えている間に到着した客間の扉を開け、お客様をお通しする。
だけど、部屋に充満している微かに香る匂いにぎょっとした。
お客様の顔も一瞬険しくなって足が止まる。
なんだそれ…。と、部屋に飾ってある花瓶にさした薔薇を見て理解する。
しまった。匂いがある薔薇を飾ってたんだ。
『申し訳ありません。すぐに窓を開けさせていただきます』
無礼を承知で部屋に足を踏み入れ、奥にある窓を開け放って風を入れる。すると、薔薇の匂いは流されてしまう。