私のご主人様Ⅱ
…遅い。いくらなんでもこれは遅すぎる。
既に30分も経ってるのに旦那様が来る気配がない。
まさか、相手が悟って帰るまで放っておくつもり?うわぁ、嫌な役回りだ…。
『…遅いね』
まずいと思った直後に口を開いた初老の男性に肩が跳ねそうになる。
うわぁ…きたぁ。
『一度聞いてきましょうか』
聞きに行ったら怒られると分かっててあえて口に出す。そうじゃないとお客様は納得しないとも分かっているから。
ドキドキしながら返答を待つと、初老の男性はにこりと笑う。ひぃっ!!
『いや。今日のところは出直すことにするよ。コーヒー、ごちそうさま』
あ、あれ?予想していた答えと違った回答に思わず呆然とする。
え、どうして?まるでこうなることが分かっていたように、お客様には怒りも不満もない。こんなお客様は初めてだ。
立ち上がったお客様に我に返り、申し訳ありませんと頭を下げ、ドアを開ける。
『琴葉?』
『お父さん!?』
ちょうど通りかかったらしいお父さんに思わず声を上げて、慌てて口を手で塞ぐ。
お父さんは怪訝な顔をした後、私の後ろにいるお客様を見るとすぐに姿勢をただした。