私のご主人様Ⅱ
『失礼いたしました。琴葉、来なさい』
『は、はい…』
すぐに仕事モードに切り替わるお父さんに対して、完全に切り替われない私。
少し離れたところまでくると、お父さんは声を潜める。
『奥様のお客様なのか?』
『ううん。旦那様の…』
そう言ったとき、明らかにお父さんの表情は固くなった。何かあるのかなと口を開きかけると、それに被せるようにお父さんが口を開く。
『…分かった。見送りだろう。私がするから、琴葉は下がりなさい』
『…うん』
有無を言わさない言葉になにも言い返せない。頷くなりお父さんはお客様に歩み寄ると少し言葉を交わして玄関に案内してしまう。
お客様が立ち去る直前、私と同い年くらいの男の子が一瞬振り返って視線が重なる。慌てて頭を下げるけど、何事もなかったかのように行ってしまった。
気のせい…?頭を上げて、立ち去っていくお客様の背を見つめる。