旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「さっきの曲、なんていうんですか?」
「プーランクの『メランコリー』だ。曲名は少し暗いが曲自体は明るくて、好きな一曲でな」
小さく笑いながら言う彼に、感じたのは『やっぱり』という感想。
「玲央さんが好きな曲なんだって、聴いててすぐわかりました」
「え?」
「だって、すごく楽しそうで幸せそうで……好きだっていう玲央さんの気持ちが、とっても真っ直ぐに伝わってきたんです」
鍵盤を弾く指先が、微かにこぼれた笑みが、彼の胸に溢れた希望を伝えた。
その気持ちを率直に伝えた私に、玲央さんは少し驚いて固まる。
「あ、でも手は大丈夫でしたか?痛くなったりとか……」
そしてそう言いかけた、瞬間。玲央さんは伸ばした腕で私を後ろから抱きしめた。
突然体を包む力強い腕に、戸惑い驚きながらも、その腕の中におさまったまま。
「れ、玲央……さん?」
「……かっこ悪いよな。まだ手、震えてる」
先ほど私の手を引いた指先は、私を抱きしめる今も微かに震えている。
その手を包むように、私はそっと手を添えた。
「人前で弾くのなんてあの日以来でさ……本当、緊張したし、怖かった。……けど、杏璃のおかげだ」
「え?」
耳元で聞こえる低い声に、問い返すように見上げると、少し高い位置にある彼の顔は私を真っ直ぐに見つめる。