旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
その夜。
夕食を食べ終え、食器を片付けていると、ポケットの中のスマートフォンが短く震えた。
なにげなくその内容を確認すると、それは結花からのメール。
送られてきたメールには『水曜の夜、空けておいてね!』の文字とハートの絵文字。その文面から、彼氏の先輩、とやらに早速連絡を取って予定を作って貰ったのだろうと察した。
今週水曜の夜……玲央さんはちょうど食事会で帰りが遅くなるから、大丈夫。
でも一応、言っておこうかな。
「杏璃、このシャツアイロンかけておいてくれ」
「あっ、はい」
一度リビングから出ていた玲央さんは、白いワイシャツを手に戻ってくると、私の手元のスマートフォンに目を留めた。
「めずらしいな、お前がスマホいじってるなんて」
「結花からメールが来てて……」
玲央さんは「そうか」とだけ言うと、手を伸ばした私にシャツを手渡す。
「あの、今週の水曜、夕方から出かけてもいいですか?」
「あぁ、別に構わないけど。どうかしたのか?」
「えっ!あ、あー……その、友達と、久しぶりに会ってごはんでもって話してて」
って、つい隠してしまった。
仮であろうと一応夫という立場の玲央さん相手に、『男の人と会う』と言いづらいし。
いや、まぁ彼からすれば、私が本当の結婚相手を見つけても他の誰かに頼めばいいだけだし、どうでもいいことだとはわかっているけど。
そう思うと、なんだかちょっと切ない。
少しぎこちない答え方にもかかわらず、彼はそれ以上問い詰めることはなく、私の頭をぽんと撫でる。
「帰り、あんまり遅くならないようにな。この辺夜ひと気なくなって危ないから」
その手は今日も優しくて、この胸を小さく揺らす。
その優しさに触れるたび、心は音を立てる。
けれどそれと同時に思うのは、彼がこんなにも優しくしてくれるのは、私が嘘の妻だからなんだろうということ。
雇っている側の責任があるから。
それ以上の気持ちはない。当たり前なのに切なく感じるのは、どうしてだろう。