旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「杏璃。こっち向けよ」
「……いや、です」
こっち向けなんて言われても、見れないよ。
目があっただけで、少し近づいただけで、こんなにドキドキする。頬も耳も熱く、きっと真っ赤になってしまっているだろう。
玲央さんは右手で私の顎に触れて、そっと私の顔を振り向かせる。
されるがままに後ろを向くと、まっすぐにこちらを見る玲央さんの顔がすぐ近くにあった。
恥ずかしいのに、逃げたいのに、熱い眼差しを向ける彼の瞳にとらわれて、目をそらすことができない。
そんな私に、玲央さんはじっと見つめたまま。
「……昨日の、ことだけど」
話題を切り出した、その時。
「あーーー!!」
突然聞こえた女性の大きな声に、私と玲央さんは驚いて声がした方向を見る。
するとそこにいたのは、つばの広い女優帽をかぶり、健康的なノースリーブ姿の女性。
私と同じくらいの歳だろうか。細い体にすらりとした背がモデルのようで目立つ。
そんな彼女は、不機嫌そうに私をにらんだ。
「……げ」
「玲央さん、お知り合いですか?」
その人を見た途端嫌そうな顔になる玲央さんに、知っている人なのだろうと察する。
けど誰だろう、と考えているうちに、女性はかけていたサングラスを外しながら、黒いロングヘアを揺らしながらこちらへ詰め寄ってきた。