旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「……はい」
はっきりと言って頷いた私に、瑠奈さんはそれまで感情的に釣り上げていた目を冷ややかなものに変える。
「それなら尚更、別れてよ」
「え……?」
それなら、尚更……?
その言葉の意味がわからず、首を傾げた私に、彼女はあきれたように息をひとつ吐く。
「玲央くんの家は、父方が経営一族、母方が音楽家一族……どちらも代々大きな名を背負ってきたの。そしてそれは、これから先もつないでいかなくちゃいけない。なんのとりえもない、平凡なあんたと結婚なんてしたら、立花家の名がけがれるのよ」
名が、けがれる。
きついほどはっきりと言われ、愕然とした。
そんな私に対して、瑠奈さんは容赦なく言葉を続ける。
「まぁ、だからこそ、有名指揮者の娘で子供の頃からバイオリニストとしてやってきた瑠奈は『いつか結婚するなら瑠奈ちゃんみたいな子ね』って言われてきたわけだけど」
長く続いてきた、経営者の血と音楽家の血。
そこに、なんのとりえもない人間が入ろうなんて、無謀なこと。
包み隠すことなく、はっきりと言われて、胸がズキッと強く傷んだ。
けれど、事実なのだろうこともわかっている。
わかっているからこそ、余計胸が苦しい。
返す言葉もなく声を詰まらせていると、瑠奈さんはバッグから白い封筒を取り出し、そっと私の前に差し出す。
文庫本一冊分ほどの厚さのその封筒にかすかに透けてみえるのは、一万円札の絵柄。