旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「なにもタダで、なんて言わないわ。瑠奈だって鬼じゃないから」
つまりそれは、手切れ金というものだろう。
これだけを支払ってでも、離れてほしいと言われるなんて。あまりの衝撃に、思考が止まってしまいそうになる。
けど、止まっちゃいけない。
正しい判断を、しなくちゃ。
私がするべき、判断を。
玲央さんのことが、好き。だからこそ、私はそばにいるべきじゃない。
……言われてみれば、当然のこと。
私なんかが、玲央さん自身にも、家にもつりあうわけがない。
玲央さんだってきっと、ただの同情心。仕事をなくした、可哀想な私に、少し猶予をくれただけ。
本気になんて、しちゃいけない。
ほんの少し自惚れていた自分がバカみたいで、乾いた笑みがひとつこぼれた。
「……わかりました。出て、いきます」
ぽつりと呟くと、瑠奈さんは勝ち誇ったようにふっと笑みをみせた。
「意外と物分りがよくて助かるわ。じゃあこれ……」
「……お金は、いりません」
彼女が改めて差し出した袋に私は手を差し出すことなく首を横に振る。
お金は、いらない。
最初は生活するために結んだ契約。だけど、今この心にある思いはそれだけじゃないから。
なにも得るものがなくても、玲央さんのことだけを想って身を引く。だから、それは受け取りたくない。
「あとで『やっぱり』なんて言っても遅いんだから。さ、わかったなら今すぐ荷物まとめて。この家には瑠奈が住むんだから」
追い払うようにしっしと手で示す瑠奈さんに、私はその場から歩き出し、二階の自分の部屋へと向かう。
そしてここへ来た時に持ってきたボストンバッグに、自分の荷物を手当たり次第に詰め込んだ。