旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
短い夢を、見ていたんだと思う。
御曹司に見初められて、受け入れてもらえて、好きだなんて思ってしまった。
だけど、現実は甘くない。
私と彼とでは住む世界が違う。見てきた景色も、この先の景色も、なにもかもが違うんだ。
自惚れた自分が、憎い。
だけど、それでもやっぱり好きで、好きで、想いは涙になって溢れた。
「っ……」
声をこらえて、涙を必死に手で拭う。
逃げるように長い距離を歩きてきて、目黒駅までやってきた私は、駅前の大きな通りをひとり歩いていた。
拭っても拭っても止まらない涙を拭い続ける私に、すれ違う人々は何事かとこちらを見ながら歩いていく。
……いい加減、泣き止まなくちゃ。
アパートに帰って、仕事を探して、自分の生活に戻らなくちゃ。
「……杏璃?」
「え……?」
すると突然呼ばれた名前。
顔を上げるとそこにいたのは、細身のスーツに身を包んだ関さんだった。
その顔は驚いたように私を見る。