旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
12.君は少し遠い
『すき』
そう言った彼女の、赤い頬と唇の感触
『……離して』
そう言った瞬間の、悲しげな表情
それらが頭から離れない。
待ってくれ。そばに、いてくれ。
声に出して手を伸ばすのに、彼女には届かない。
杏璃
杏璃
「杏璃っ……!」
部屋中に響く自分の声で目が覚めた。
はぁ、はぁ、と息を切らせながらふと我にかえると、そこはいつもと変わらぬ広い寝室だった。
まだ薄暗い窓の外から、朝方なのだろう。
額にじんわりと滲む汗で湿った前髪をグシャグシャとかいた。
「……はぁ、起きるか」
ため息をひとつこぼし、体を起こすと、ベッドから降りて1階へと向かった。