旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
なんで、あんな夢を見たのか。
それはきっと、昨日、この家を去る杏璃を引き止められなかったことを、ひどく後悔しているからだと思う。
あの後瑠奈を問い詰めたけれど、口を割ることはなかったし……。
『元々仕事がないからと契約しただけですし……玲央さんだって、結婚相手はもっと本気で、真剣に選ばなきゃダメですよ』
……わかってたよ。俺との生活が、あいつにとっては生活のためでしかなかったなんてこと。
わかってたけど、『すき』のひと言に嬉しいと思わないはずがなかった。
「……本気で選んでるっての」
もっとはっきりとした、伝えるべきひと言が、あの場で言えなかった。そんな自分が悔しくて、もどかしい。
キィ、とドアを開けリビングへと出ると、物音に目を覚ましたのか、いつもは部屋の端で寝ているはずのノワールが近づいてきた。
「……ノワール。悪いな、起こしたか?」
『クゥーン……』
頼りない声を出しながら、ノワールが口にくわえているのは、杏璃が忘れていったハンカチ。
香りがついているのだろうそれをくわえて、ノワールはしっぽを下げた。
……この時間に杏璃がいないことで、なんとなく察しているのかもな。
「……寂しがるなんて、短い期間で随分懐いたんだな」
ノワールに言ったひと言は、自分の心にもすこし響いた。