旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「杏璃?いるのか?」
「あっ、玲央さん。おかえりなさい」
ちょうど帰ってきたところらしい。姿を見せた玲央さんは、私の姿が見えないことを不思議に思い探しに来たようで、こちらに目を留めた。
「風呂掃除してたのか」
「はい。見てください!ピカピカですよ!」
「当たり前だ、それもお前の仕事だからな」
うっ……そうだけどさ。でも少しくらい褒めてくれてもいいと思う。
そうふて腐れたように口を尖らせ、シャワーで手についた泡を流した。
「あ、長谷川さんがご飯作り置きしてくれてますけど、食べますか?食べるようなら今温めますよ」
「それくらい自分でやる。お前は掃除の続きしてろ」
そう言うと、その目はなにかに気付いたように私の顔に視線を留め、こちらへ近付くと手を伸ばす。
「鼻に泡、ついてる」
指先はそっと私の鼻にちょん、と触れてついていた泡を拭う。
体温の低い彼の、冷たい指先が突然触れて、思わず「ひゃっ」と間抜けな声を出すと、玲央さんはふっと笑った。
その小さな笑みがちょっとかわいい。
「飯食ったら少し寝るから。夜になったら起こしてくれ」
「……はーい」
脱衣所を後にする彼に、この鼻先に残る感触は繊細な指先の冷たさ。
それがなんだかちょっとくすぐったい。