旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「じゃあ、あのピアノは私に任せてもらえませんか?」
「え……?」
言い切った私に、その目は驚き丸くなる。
「私が綺麗にします。部屋の換気もしますし、掃除もします。いつか玲央さんがあのピアノをまた弾きたいと思える時まで、私が大切にします」
彼の悲しい目は、好きなものを諦めたくて、拒んで、大切じゃないと言い聞かせているように見える。
だから私は、それに流されてはいけない。拒まれても怒られても、その心に触れたい。
「……ふっ」
すると彼は、私に対して笑みをこぼした。
「な、なんですか」
「いや、変なやつだと思って」
変なやつって……失礼な。
そう思いつつも、その小さな笑みに湧き上がるのは安心感。
先ほどまでの少し張り詰めた空気が、穏やかなものになるのを感じると玲央さんとふたり並んで歩き出す。
「さっさと買い物して帰るぞ、腹減った」
「はい。私も、どんぶりでごはん3杯いけるくらいお腹空きました」
「それはない」
「えっ」
玲央さんを見ると、彼はいつものように、おかしそうに笑ってみせる。
やっぱり、その明るい笑顔がいい。悲しい笑顔は見たくない。
彼がこれまで見せてくれた柔らかな笑みを、もっと、もっと見たいから。
その一歩になれるよう、私が大切にする。
そんな思いを抱きながら、彼とふたり、涼しい夜風の中を歩いた。