旦那様と契約結婚!?~イケメン御曹司に拾われました~
「……引かれて傷ついたり、本当の自分を否定されるくらいなら、恋なんてしたくない」
苦しい、窮屈、そんな想いばかりの恋ならいらない。
そんな恋なら、したくない。
視線を足元のパンプスに向けると、その視界には茶色い革靴のつま先が入り込む。
その距離感にふと右を見れば、人ひとり分空けて座っていたはずの彼が距離を詰めてすぐ隣にいた。
「お前、さては男見る目ないな?」
「ちょっと、どういう意味ですか」
「小さい男にばっか引っかかってるってこと」
そう言うと、玲央さんはふっと笑って私の頭をぽんぽんと撫でる。
「俺は、お前の食ってる姿好きだよ。幸せそうで、嬉しくなる」
「……さすが。お世辞が上手ですね」
褒めたフリでからかおうとしているのだろうか、と警戒心から流そうとする私に、彼は「本当だって」と撫でていた頭をそっと寄せた。
「世界で一番、かわいいよ」
耳元でささやく低い声に、胸はドキ、とときめきを感じる。
……反則、だ。
この距離とか、そんな優しい言い方とか、なにもかも。この心にするりと入り込む。
彼が言う『嬉しくなる』が、お世辞じゃないんじゃないかって、思えてしまうのは、彼がいつも笑ってくれるから。
食べるたび顔をひきつらせた、これまで見てきた人たちとは違う。
玲央さんだけはいつも微笑んで、『よく食うな』って言いながらも、私を否定したことなんてない。
その笑顔に、いつだってこの心はあたたかな愛しさであふれる。