長い夜には手をとって
ここしばらくカメラなど使っていないけれど、私も普通のデジカメなら持っているのだ。そんないいものではないけれど、寝顔盗撮の仕返しくらいならそれで十分だ!
ふっふっふ~!
色々探したあげく何故かベッドの下から発見したカメラを持って、静か~に階段を降りる。ここで伊織君が目覚めてしまったら台無しだ。もう決めたのだから。絶対寝顔を撮ってやる~!
こっそりこっそり近づいていく。
レンズを出して、逆光にならないように気をつけながら、私はカメラを覗きこんだ。
するとその瞬間、眠っているはずの伊織君がぱちっと目を開けたのだ。
そして微笑んだ。
二重を細めて、目元に皺を寄せて。
――――――――――――・・・あ。
私はそれをレンズ越しに見た。
魔法でもかけられたように体が動かなくなってしまった。シャッターを押そうとしていた指も、開きっぱなしの口も。
「凪子さん、よし仕返しだーって、思ったんだね」
ククク、と彼の口から笑い声が漏れる。
その笑い声が耳に届いた瞬間、私に現実が戻ってきた。
パッとカメラを顔の前から退ける。
「・・・起きてた?」
伊織君は笑顔のままでうんと頷く。布団の上でその大きな体を伸ばしながら言った。
「ついさっきね。上で何かバタバタしてるな~、と思って目が覚めた。カメラ探してたんだ?あははは」