長い夜には手をとって
③オリオンのため息
そんな風にたまに楽しく、普段はつとめて冷静に、何でもないって感じをどうにか保って毎日を過ごしていると、案外日々は早く過ぎていってくれたのだ。
伊織君の足の腫れが引き、痛みもなくなったのは怪我をしてから12日くらい経ったころ。2月の2週目に入っていた。
「もう一応は普通にしてもいいって」
そう言いながら、久しぶりの外出で病院へ行って来た伊織君が、会社から帰宅したばかりの私を玄関で迎える。
「あ、良かったねえ。案外早くて。でもその一応は普通ってどういうこと?」
私がコートを脱ぎながら首を傾げると、ほら、と彼は空中で指をくるくる回しながら言う。
「重過ぎる荷物をもって長距離歩いたり、急にダッシュしたりはしないでってこと」
「あ、成る程」
つまり普通の動作は問題ないが、彼が職業にしているカメラマンとしては、まだ完全復活は出来ないってことなのだな。私は理解した。
「というわけで、凪子さん」
伊織君が急に改まって直立不動になる。
「ん?」
「怪我してから今まで、看護、本当~にありがとうございましたっ!お陰で助かった」
長い体を直角に折って御辞儀をしている。私はあはははと笑った。
「いえいえ、どういたしまして。でも大して役には立ってなかったよね~ご飯だって毎日作ったわけじゃないし。伊織君が宅配頼んでくれたことの方が多かったような・・・」
「そんなことないよー!最初はマジで動けなかったから、ほんと助かって・・・」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
二人で同時に振り向く。