長い夜には手をとって
よし、と私はようやくその事実を受け入れて、コホンと空咳をした。
「水谷、さん。今日は一体どういうご用件でこられたんですか?あの・・・綾はいないんですが」
私がそう口を開くと、彼は部屋を見回すのをやめて私に視線を寄越す。それから笑顔を消して、真面目な顔で頷いた。
「はい、知ってます。姉から今朝、電話が来たんです。それでここに来ました」
「え?綾から電話?」
私は驚いてつい叫ぶ。何何?何だって?
「でで、電話って、えーっと綾は何て言ってました?今どこにいるって?」
彼は申し訳なさそうな顔で、ゆっくりと首を振る。
「居場所などは言ってません。こっちが寝ぼけている間にべらべらと勝手に喋って、切られたんですよ」
「え」
「お・・僕、海外から帰国したてでまだ時差ボケがありまして、電話は昼間だったんですけど寝てたんです。で、かなり久しぶりな姉からの電話、それもいきなりだったんで混乱しましたけど、とにかく判ったんです。姉はあなたのお金を持ち逃げしたって言ってました。本当ですか?」
「あの・・・はい」
私は力が入っていた肩を意識して下ろす。どうやらゲリラ的な電話で、彼も綾の居場所を知らないらしい。それならば私への置き手紙と同じレベルだ。なんだよー・・・期待させて、もう。
ガックリ。私は椅子にもたれかかる。
弟さんはため息をついて、申し訳なさそうな顔で聞いた。
「そのお金、いくらでしょうか」
「箪笥貯金なんです。約100万円。お金を入れていた鞄ごと、持っていかれました」