長い夜には手をとって


 頭は絶賛混乱中。色んな思いが体中をぐるぐると回りまくって、もうどうしたらいいのか判らない。

 結局、体が冷え切るまでそうしてしまっていた。だから深夜に熱いお風呂に入る必要があって、それもぼーっとしたままだったので今度はのぼせてしまい、二階へ眠りに上がったのはかなり遅かった。

 閉められた伊織君の部屋の襖。この中に、今日は伊織君がいるんだ。大きな優しい笑顔でこっちを見る伊織君。さっき、キスをしてきた彼が。

 フラフラの状態でベッドに倒れこんで、私は涙ぐみながら眠りにつく。

 ・・・あああ~・・・もう、止められないかも~・・・。

 頑張ろうって思ったのに。

 恋にはならないようにって思ってたのに。

 思い出し過ぎてリフレインし過ぎて、もはやあれが現実にあったことに思えない。夜の縁側、コーヒーの湯気とタバコの煙、部屋の明かりに顔半分だけ照らされた伊織君。

 あのとき、二人は何したんだっけ?

 確か、確か――――――――――・・・



 夢の中に出てきたのは、ニコニコと笑うまだ若い両親の姿。

 それが何を意味するのか、翌朝、起きた私はベッドの上でぼうっとしながらまずそれを考えていた。

 伊織君は既に居なかった。

 一階に置いていた自分の荷物も朝の内に片付けたらしく、居間は彼が怪我をする前の状態に戻されている。

 久しぶりに誰もいない一階はガランとして見えて、私は一瞬寂しさを感じて立ち尽くす。

 ・・・そうか、今日から出勤だ、って言ってたな。

 私は大きなため息をついて、エアコンとテレビをつけた。



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